【アウトリーチ】「日本語からはじめよう」 C01 大原繁男氏@愛知県立一宮高等学校 桃陵館
題目:日本語からはじめよう
日時:2023年12月11日(月)
2・3限( 9:55~12:15)2,3,4組
4・5限(12:55~15:15)1、5組
場所:愛知県立一宮高等学校 桃陵館
対象:2年生理系クラス(1〜5組、約200名)
「日本語からはじめよう」と題するアウトリーチ活動を行いました。論理文の書き方を高校生に学んでもらう講義です。「日本語から何をはじめるのか、なぜ物理学者が日本語を教えに来たのか、謎ですよね」と講義へ誘います。
導入では、物理学者をはじめ技術者など、理系であっても書く能力が必要なことを知ってもらいます。論文、予算申請書、技術報告書、取扱説明書など、書く必要性を例示して、格言「Publish or Perish」を紹介します。理系だから文系科目は不要などと思ってはだめですよ、ということを意識させます。予算申請書の話ではアシンメトリ量子も含め、大きなプロジェクトについて紹介しています。その中で、若手支援の話もしながら、10年後には若い研究者として活躍することを想像してみて、と高校生に将来像を見せるようにしています。
日本語から何がはじまるかについては、論理的な文章を書くことで論理的な思考力が養われることを指摘します。また正しい日本語を書くことは外国語への翻訳にも役立つことを紹介します。もともとこの講義はアシンメトリ量子の前身であるJ-Physicのニュースレター[1]で紹介された石黒鎭雄『日本語からはじめる科学・技術英文の書き方』丸善,1994)に端を発しています。英文の書き方の本だけど、7割が日本語について解説されていることや、石黒鎭雄博士の紹介(海洋物理学者としての活躍やノーベル文学賞受賞者カズオ・イシグロの父親であること)も挟んで、話に飽きないように講義を進めます。ここまでが書くことへの動機づけです。
引き続いて、ワークシートで演習しながら、文章を書く際の8つの点検項目リストを完成させていきます。ワークシートでの最初の問いかけは「私たちはなぜ文章を書くのか」です。これに対して高校生たちは、すぐに「誰かに自分の考えを伝えるため」と答えます。このことは、これまで教えたどの高校でも例外がありません。ほとんど全員がそう答えます。「では、文章を書くときに読み手を想定して、相手に伝わるように書いていますか」と指摘します。こわいくらい、シーンとします。そういう姿勢をとったことがないと気づいたことが伝わってきます。
論理文の書き方は、その構造からはじめて、一つの文の書き方まで教えています。主題(問い)と主張(答え)とその論拠からなることや、パラグラフ・ライティング、事実と意見の違い、日本語の曖昧さ(主語や目的語の欠落、修飾関係のわかりにくさ)などを説明しています。
パラグラフ・ライティングの例には清少納言の「春はあけぼの」を利用しています。トピックセンテンスを探させると、すぐに春夏秋冬のパラグラフの冒頭だと生徒たちは指摘してくれます。トピックセンテンスだけ読むと「春はあけぼの 夏は夜 秋は夕ぐれ 冬はつとめて」と美しい七五調になり、文章が要約されます。一方、原文(写本)をみてみると、元の日本語には句読点もなく、パラグラフの概念がないことがわかります。文としても省略が多く、日本語の曖昧さの例にもなっています。修飾関係のわかりにくさには、有名な「黒い目のきれいな女の子がいた。」を紹介しています[2]。この文は八通りに読めます。
授業の後半は、実際に高校生の書いた文章を改訂していきます。今回は、物化部の生徒たちが書いた概要を教材にさせてもらいました。著作物の利用に関しての許諾も授業に入れています。作業を単純にするために「不足を補い、重複や過剰を取り除き、簡潔に書く。」ことだけやります。長文はわかりにくいことにも気づいてもらい、連なった短い文に直します。
改訂を通して、論理的な文章を書くには論理的な思考が必要であること、研究計画や内容の不十分な点が見えてくることに気づいてもらえると大成功です。
今回は改訂体験がうまくいったように感じます。講義後に質問も多く出ました。生徒へのアンケートでも質問が25(分類すると19)でてきましたので、文書で回答しました。
この講義はとても重要で役に立つと私は思っています。始めて4年になりますが、今後も継続していくつもりです。
[1] 播磨尚朝,J-Physics News Letter 5, 2(2018)―日本語からはじめる.
[2] 木下是雄『理科系の作文技術』(中央公論新社,1981).