第4回 アシンメトリ量子セミナー 山崎裕一(NIMS) @大阪大学
日時: 2023年12月15日(金)15:10~
場所: 阪大基礎工B205講義室 (対面にて実施します)
講演者: 山崎 裕一 先生(物質・材料研究機構(NIMS)マテリアル基盤研究センター・主幹研究員)
講演題目: X線で観る強磁性のような反強磁性体
概要
強磁性体は磁気モーメントが同じ方向に揃っているため磁化を有し磁石に なりますが、反強磁性体では互いに打ち消してしまうため磁化は発生しませ ん。しかし、磁化の無い反強磁性体でも強磁性体と同じような異常ホール効果 や磁気カー効果の物性応答を示す物質が発見されるようになってきました。例えば、反強磁性金属 Mn3Sn は、120 度構造と呼ばれる反強磁性体にもかかわらず異常ホール効果が観測されています[1]。
X 線を使った磁気円二色性(XMCD)は内殻励起における左右円偏光の遷移 確率の違いより、磁気モーメントにおけるスピンと軌道の成分に加えて、原子内磁気双極子項(T3項)と呼ばれる物理量が測定できます。Mn3Sn の電子状態を詳細に調べるとスピンと軌道のモーメントは打ち消されますが、Tz項に 由来した XMCD の成分だけが残って観測できることが明らかになりました [2,3]。原子内磁気双極子は磁化を持たない双極子成分ですが、異常ホール効果 の発現への関与も指摘されており[4]、反強磁性体における強磁性的な振る舞いの起源になっている可能性があります。講演では、XMCD によって原子内磁気双極子が観測できるメカニズムを説明し、反強磁性体や交代磁性体への研究展開について紹介します。
[1] S. Nakatsuji, N. Kiyohara and T. Higo, Nature 527, 212 (2015).
[2] Y. Yamasaki, H. Nakao, and T. Arima, J. Phys. Soc. Jpn. 89, 083703 (2020).
[3] M. Kimata, Y. Yamasaki et al., Nature Communications 12, 5582 (2021).
[4] S. Hayami and H. Kusunose, Phys. Rev. B 103, L180407 (2021).
世話人:関 山 明